猫とバイクを愛する男のツーリング、登山、
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みずがき山 '05年10月
(雷雲祭り)

 天狗山荘から白馬鑓の取り付きまではなだらかな稜線上歩きだ。白馬特有の花ウルップソウなどを眺めながら余裕たっぷりに歩く。時間も予定通りでこのままゆっくり行っても15時には小屋に着くだろう。

 白馬鑓の取り付きで鑓温泉への分岐がある。鑓温泉は標高2100mにある温泉で、下記は山小屋も営業している。

 下調べをしたようであるグッチは「これって日本で一番高いところにある温泉なんですよね。」とほんのり自慢げだったが、実際は間違いである。標高日本一は立山室堂のみくりが池温泉である。次に期待か。

 上りが始まると俄然グッチ優勢。とても余裕らしく、時折小走りに登ったりする。うーん、そこまで余裕とは。ジャージ効果か。ただ、白馬鑓の上りは途中で傾斜が弱い部分があるので伸二郎も思ったほどは疲れなかった。
ウルップソウ。白馬を代表する高山植物。形が特徴的。 白馬鑓はとても立派だ。白い山肌、ででーんとした姿。白馬三山の中でももっとも立派かもしれない。
白馬鑓の取り付きに鑓温泉への分岐がある。鑓温泉にもいつか訪れたいな。 白馬鑓への登り。離れた場所から見てるとすんごくえらそうだったが、実際はそれほどでもない。

 何度か枝道をやり過ごし(道が複数できているので分かり辛い。ただ、どれでも大抵頂上にはつける。)、頂上への分岐を頂上方面へ。

 分岐から3分ほどで頂上に着いた。残念ながら頂上はガスに包まれ、展望が無かった。うーん、ここからの景色を楽しみにしてたんだが、仕方ないか。また来りゃ良いしね。
倒れそうなくらいやわに見えるが、意外に倒れない案内看板。不思議だ。 絶景が拝めると思っていた白馬鑓。残念ながらガスの中。うーん、残念。

 鑓から下るとき、気のせいか、ゴロゴロという音が聞こえた気がする。あー、遠くで雷でも起きてるんだわ。かんけーないねと特に気にもせずゆったりと下る。

 ガスは晴れなかったが、登山道脇には色々な高山植物が咲き、伸二郎はほどほどに満足。特にイワベンケイという花を初めて見たことに妙に気分をよくした。なんちゅーか、形が面白いのだ。

 高山植物を楽しみながら下っていくと、杓子岳がガスの中から姿を現してきた。こりゃいよいよ晴れるわーと思っていたら雷の音が近くなってきた。それと同時に雨がポツリポツリ。
一度見たら忘れられないほど特徴のあるイワベンケイ。変わった花&葉っぱだ。
ミヤマオダマキ。白馬岳のものは花が大きく、色も鮮やか。 やっとこさ見えた杓子岳。ところが、この後、天気が劇的に悪くなり。。。

 こりゃいかん、雷雲が近づいてきたようだ。すぐにカッパを着込み、先を行こうとするとグッチが見当たらない。見ると、既に登山道脇に避難している。はえーなこいつ。どうやら、ここを動く気は無いみたいだ。

 まー、一緒に雷雲が過ぎるのを待つか。伸二郎も同じく避難すると、風が急激に強くなり、黒っぽいガスが猛烈な勢いで流れてきた。いよいよ雷雲本体がかかったみたいだ。グッチの行動は正解だったかも。

 台風並みの風雨と稲光、空に響き渡る雷鳴。しまいにゃヒョウも降ってくる始末。さっさと過ぎんかなーと願うが、一向に雨が止む気配が無く、逆にさらに悪化してきた。雷鳴はさらに近くなり、時折落雷と思われる激しい音が耳をつんざく。一発すぐ近くに落ちたらしく、すごい轟音だった。こりゃ、しばらく動けんな。

 雨と激しい風で体温は次第に奪われ、体が少し震えてきた。夏山で昼寒いと思ったことは初めてだ。夏山を甘く見すぎていたのかもな。

 結局、1時間も同じ場所で耐えた後、ようやく雷雲が去った。ずぶぬれカッパマン二人も稜線にいた他の登山者も無事であったことを心から喜んだ。
稜線にいた誰よりも怯えていたであろうこの男にも笑顔がもどる。だが、それもつかの間。。。 寒さに鼻水を垂らしまくっていたこの男にも安堵の表情が。これで雷雨は終わったと思ったんだけどな。

 雨が上がったあと、次の雷雲が来ぬうちにと急ぎ足で今日の宿泊予定地に向かう。今日は村営白馬宿舎に泊まる予定だ。

 杓子岳をぜーぜー言いながらトラバースし、やや下っていく。一刻も早く進みたいグッチに伸二郎は遅れがちになる。すると、グッチは伸二郎を気遣い、追いつくのを待った後、再びスピードを上げて歩きだす。

 そんな恐怖感の中にもやさしさを忘れないグッチと裏腹に、伸二郎は自分のことしか考えていなかった。基本的にピンチになったときに初めて後悔し、あらかじめ気にしてることが少ない伸二郎は危機感がとても薄かった。

 おまけに今までガスで見えなかった景色が見えると来た。こりゃ、写真を撮るしかねーとデジカメでパシャパシャと写す。すると、一刻も早く小屋に着きたいグッチは危機迫る表情で
「こんなときに写真なんか撮ってる場合じゃないでしょう!」
と少し怒り出す。確かにその通りである。

 無理も無い。第2、第3の雷雲がいつ来てもおかしくない状況だ。しかし、すまぬグッチ。写真は我が人生。撮らない訳にはいかんのだよ。
ビビリチャンピオンに怒られながらも撮影した貴重な写真。晴れればルンルン気分であっただろう。

 てな具合でちょっぴり足早に歩いていたが、本日の宿泊地への最後の上りに差し掛かったとき、再び黒いガスが稜線を流れてきた。

 ヤバイな。今度は伸二郎から避難しようと提案した。案の状、雷雲はすぐに来た。先ほどと変わらぬ台風並みの暴風雨だ。先ほどと違うのは雷が少なくなったことぐらいか。

 じーっと雷雲が過ぎ去るのを待つが、いつまで経っても過ぎない。既に1時間以上経過している。時間も夕方となり、寒さはかなり体にこたえる。

 手足の震えが断続的に起こるようになってきた。かなり限界に近い。雷はたまに鳴るくらいだが、風雨は依然台風並みだ。

 危機を感じた伸二郎とグッチは話し合う。グッチはビバークをしようと提案してきた。伸二郎は小屋までレッツゴーかビバークかで悩んでいた。

 その時、すぐ近くで一緒に避難していた人が小屋まで行くと言って来た。誰か一緒に行く人間がいたら、何でか知らんがとても安心感が湧いてくる。雷もほとんど鳴っていない。行くしかない。伸二郎はグッチに伝えた。グッチは少し考えていたが、行くと答えた。決まりだ。

 近くには伸二郎達を含め、全部で5人の登山者がいた。初めの一人が動いたのを皮切りに一斉に稜線を小屋に向かい歩く。

 風は台風並みに強く、数歩進んでは風に飛ばされそうになり、しゃがんで風を耐え、スタミナ回復を待ち、再び数歩進むを繰り返す。動き出したら、不思議と落雷の恐怖はやわらいでいた。

 稜線で何度かグッチに謝った。こんなことになってすまんと。グッチは「その話は後でしましょう」と答えた。確かにそうだ。今は無事に小屋に着くことだけ考えよう。

 風に耐え、丸山のピークを登りきると、今日の宿泊地である村営白馬頂上宿舎がすぐ近くに見えた。伸二郎とグッチは2人でガッツポーズをした。もう安心だ。後はゆるやかな下りを小屋まで行けばよい。

 村営宿舎で宿泊の手続きをし、しばらく休んでいると、次第に体が暖まってきた。健康体にもどり、お腹も空いてきたので、ご飯を食べようと食堂に行ったとき、伸二郎の目に信じられない光景が飛び込んできた。窓の外に晴れた景色が広がっていたのだ。

 つい1時間前はあんなに荒れていたのに。山の天気は分からないものだ。

 せっかくなので、ご飯を食べた後、外に景色を眺めに行った。雷雨に怯えた杓子岳は穏やかな表情を見せていた。夕日が落ちた西の空も実に美しい。おやおや、すぐ近くに日本海も見れるじゃないか。

 なんだか幸せだった。今日は大変な目にあったが、この日の最後に素晴しい景色が見れたことで全てが報われた気がした。伸二郎は実に単純な生き物だなあ。
死にそうな思いでたどり着いた村営白馬宿舎。だが、30分後にはこの天気。山の天気は分からんもんだ。 今までの荒天がウソのようにすっきり晴れた杓子岳と白馬鑓。うーん、恨めしい。
なかなか綺麗な夕景だった。ちょっと前の辛い思いがなんだかどうでも良くなった。良い景色に出会えて満足だ。 意外なほどに近い日本海。こんなにも近くにあるとは。

 伸二郎が外で素晴しい景色に感動しているとき、ジャージ男はずっと食堂でボケーっとしていた。年寄りみたいにストーブにあたりながらなんもせず。この男は何を目的に山に登っているのか良く分からんな。

 この日は色々あったので、珍しく、酒を飲むことにした。そういえば、結局今日の夜は星が見えるので、昨日グッチと行った賭けは伸二郎の勝ちだ。見たかネガティビスト。

 賭けには勝ったが、ジャージマンのビールをおごる。危険な目にあわせた後ろめたさがあったからだ。明日は最終日。晴れて白馬岳からの絶景を味わって帰りたいものだ。白馬の頂上に立ったことがないジャージマンの為にもなんとか晴れて欲しい。
ストーブで体を温めるジャージマン。活動的で無い様が妙に良く似合う。 色々あったので、珍しく酒を飲む。伸二郎にとっては勝利の美酒。ジャージマンにとっては無事を祝う酒。


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